先輩ママ・パパへのインタビューを通して「育児と仕事」をテーマに物語を紡いでいく特集『My BABY & Me』。
vol.02では、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の関連会社で宇宙開発エンジニアを務めたのちに独立・企業し、宇宙技術の実験をサポートする会社を営む中島様をご紹介。お父様はリニアモーターカーの技師、23歳のご長男は航空機や船舶の技術者を目指して奮闘中という、技術者一家に脈々と受け継がれる“親子の絆”を軸にお話をうかがいました。
“宇宙開発エンジニア”という仕事を、しかも“ひとり会社”でやられているということが想像もつかないのですが、どのようなお仕事をされているのでしょうか。
簡単に言うと、当時やっていた仕事を引き続き外部の会社としてやっている形になります。新しい装置ができたときには、いきなり宇宙に持っていくわけにはいかないので、地上で様々な条件を設けて実験を行います。その実験についてのコンサルティングや、実験環境の設計・製作などを中心にやっています。
製作まで実際にご自身で手を動かしてやられるのですか。
そうですね。この間もある実験施設をひとりで作って納品したばかりです(笑)。
実を言うと、そもそも自分の手で何かを作り上げることが好きで、それができなくなってきたので退職したという経緯があります。その後、ハンドメイドにこだわった自転車の製造・販売を行う会社を始めたのですが、以前の職場から「手伝ってくれ」と声がかかって。自転車の会社で仕事を受けるわけにはいかないので(笑)、Hue CRAFTという会社を立ち上げたという形です。なので、すべての作業は人に任せる形ではなく、自分で作り上げることにこだわってやっています。
子どものころからものづくりに興味があったのですか?
まあそうですね。レゴが大好きで、ずっとやっていましたね。父がリニアモーター技師でしたし、祖父もそういったことが好きで。祖父は明治生まれなんですが、妄想で電気鉄道の模型なんかをネジ1本から作っていたんですよ。
そういうのを見て育ったせいか、高校生のときにはバイクいじりも始めて、自分のバイクだけではなくレースチームのメンバーの整備までやっていましたね。
そういった意味では、いまエンジニアとしてお仕事をされているのはお父様やおじい様の影響があるのでしょうか。
祖父はいろいろな事情があって技術者ではなく医者になったのですが、幼いころから父の職場の工場見学など家族招待イベントには連れて行ってもらったりしていたので、影響は受けていると思います。父は設計などを行う“机上の”開発者タイプでした。私は手を動かして作っていきたいタイプ。そうした違いはありますが。
お子様にも中島さんの影響はありそうでしょうか?
もう皆成人しているのですが、23歳の長男は私譲りの志向を強く引き継いだ結果、航空機や船舶の技術者を目指しています。完全に理系でエンジニア気質です。20歳の次女は就活中ですが、航空系を目指しているようですし、26歳の長女は私がやっている自転車事業のほうの関連でサイクルウェアのデザインをやっていこうとしています。
すごい! そもそもずいぶんと仲のいい家族なんですね。何か秘訣はあるのでしょうか。
強制をしないことじゃないですかね。進路でもなんでも、基本的に「こうしろ」といったことはしてこなかったですね。したのは後押しだけ。私自身「勉強しろ」と言われて育った結果、あまり勉強をしない子どもになってしまっていたので、今でも日々勉強しながら仕事をしているという状態です(笑)。それを反面教師にしているとでも言いますか。
中島さんがお父様にしてもらったように、ご自身もお子様を工場見学や会社のイベントに連れていくようなことはあったのでしょうか?。
そうですね。一般公開イベントや、宇宙飛行士の訓練メニューを体験する子ども向けイベントも一緒に行きましたね。
長男は私と父のいいとこどりというか、機械いじりも理論もできる子に育ちましたね。19歳のときには車をいったんばらして組み直したりということができていました(笑)。
それもすごいですね。そんな仲良し家族の中島さん一家ですが、起業するときのご家族の反応はいかがだったのでしょうか?
退職したのが2019年だったのですが、子どもたちもそれなりに大きかったので、妻や子供たちからも特に反対されるようなことはありませんでしたね。「俺はそろそろ好きにやるからな」って感じで自転車のお店を始めて(笑)。そのあと、以前の職場から声がかかって、宇宙開発のほうのHue CRAFTを立ち上げた形です。
長男は大学受験の年でしたが防衛大学を志望してたので「お金の心配はかけないよ」と言ってくれました。一方で次女が当時高校二年生だったのですが、アメリカ留学に行く年だったのでそれなりにバタバタはしましたが(笑)。
留学をされているんですね。何か目的があって留学させたのでしょうか?
いやいや、本人の意志で行きたいということだったので背中を押しただけです。中学生くらいのとき急に娘が「留学したい」とパンフレットを持ってきたので、適当に英検準2級だったか2級とかの取得を条件にOKしたら、サクっと取ってしまって。「じゃあ約束だから行ってこい」と。
確かに「強制しない」が中島家のモットーでしたね。ほかに育児において心がけていたことはありますか?
その大前提として、「自由にしていいよ」と言ったときに「自由」の本当の意味を理解し、実行できるような状態にしておくことですね。宇宙もそうですが、ものごとには“なぜこうなっているのか”の理屈があります。頭ごなしに何かを押し付けるのではなく、そこのルールやバックグラウンドをちゃんと向き合って伝えていくことが大切だと思っています。
なるほど。そうしたことの積み重ねで自分で考える力が伸びていくということですね。なかなか難しそうですが...
具体的なエピソードでいうと、長男が中学生くらいのときだったかな? 数学を勉強していた長男が「因数分解とか三角関数とか将来なんの役に立つの?」と言ってきました。そこでexcelを開いてセルに因数分解の式を書き込んで演算して見せたり、CADを使って三角形を描いて、コサインなどのソースコードを表示させて見せたりして「ほら、大人はこうやって使うんだ」と教えたりしていましたね。
そうやって子どもの疑問に真剣に向き合って、答えやヒントを提示できる親はかっこいいなと思います。最後に、子育て中のママ・パパに向けてメッセージやアドバイスなどあればお願いします。
人工衛星はいろんな不確定な外乱にさらされながらも、しっかりと軸があるので自立してバランスをとることができます。子どもたちもそういった軸が育てば、親はあと押しするだけなのでラクなものです(笑)。あまり「責任」みたいなものに囚われすぎずに、楽しみながらやっていくのがいいのかなと私は思います。