先輩ママ・パパへのインタビューを通して「育児と仕事」をテーマに物語を紡いでいく特集『My BABY & Me』。
vol.09では、「まあるいスタイ」などが人気のベビー・キッズギフトブランド『MARLMARL』で世界的に知られる株式会社Yomのデザイナー、黒川さんにお話をうかがいました。日本のファッションブランドの草分け的な会社で研鑽を積み、現在は“自分らしいスタイルを大切にするペアレンツのためのブランド”として株式会社Yomが提案する『MATO by MARLMARL』のプロダクトデザインを一手に引き受ける黒川さん。その一方で、12歳の娘さんも育ててきた黒川さんのブランドや子育てにかける思いに迫ります。
株式会社Yomへの入社の経緯はどういったものだったのでしょうか?
Yomには、MARLMARLという出産祝いのギフトブランドがあるのですが、私はもともとその世界観が好きで、友人へギフトとして贈っていました。そのうちMATOを知って...という感じです。会社の「子育てにワクワクを」というパーパスや「子どもがいるライフスタイルを自由にデザインできる社会」というビジョンなど、フィロソフィーにすごく共感したというのも大きいです。
まずはデザイナーというお仕事の内容について教えてください。どういったペースで、どんな流れで仕事を進めていくものなのでしょうか。
いま、ちょうど来年の春夏の企画を進めています。(※編集注:撮影時、7月末)なので、大体8ヶ月前に企画内容を固め、デザインをFIXし、仕様書を制作します。工場と仕様内容を確認しながら制作を進め、商品精度を高めて行って....という感じですね。MATOの場合、1シーズンで6、7型ほどを作ります。
7つの型にカラーバリエーションも入れると結構なパターンになると思うのですが、それを何名かのデザイナーで割り振って作っていくという体制なんですか?
あ、いえ、MATOのデザイナーはいま私一人です(笑)。
業界的にはデザイナー1人あたりで1シーズン7型はだいぶゆったりしているほうだと思います。なので、時間に追われて「何かデザインを上げなきゃ」というのではなくて、モノ軸で「どれだけ子育ての役に立てるか」一つひとつの商品を考え抜いて制作できる事が、とても魅力であり、やりがいだと感じています。
すごい世界ですね...。どういったところから着想を得るのでしょうか。
実際のペアレンツにヒアリングをして洗い出した「『子育てのシーンのお困りごと』に対して商品を通じて解決できることはないか?」という視点で機能を考え、そこからデザインを設計していきます。例えば、このバスローブは、お風呂上がりに子どものケアを優先しなければならないママが、これだけ羽織れば大丈夫というものにしたくて、スポーツタオルなどに使われる吸水速乾の素材を採用しました。
実はこれ、バストバンドがついています。授乳中のママって入浴中に血流が良くなり、お風呂上りに母乳が出やすくなることがあります。私自身、当時困っていたことなんですが、お風呂上がりに母乳のケアをしながら子どものお世話をするのが大変でした。授乳ブラや母乳パッドをつける方も多いと思いますが、それをしなくてもいいように、アンダーバストを調整できるゴムを付け、前ホックを留めるだけですぐに動けるようにしています。
ご自身の経験に基づいた、すごく配慮の行き届いた商品ですね。ママ向けの産後ギフトにすごく良さそうです。
是非そういった用途でも使っていただけると嬉しいです。プッシュギフト(※編集注:出産の労いの気持ちを込めて、主にパパからママへ贈るもの)にもいいと思います。
商品が完成するまでに社内メンバーに何度も試してもらい、調整を繰り返し行ったり、縫製工場の方と幾度となく連絡を取り合ったりして、商品の精度を高められるよう尽力しています。
一緒に商品制作に取り組んでくださる工場の方にはとても感謝しています。
デザインを起こして終わり、というものではなくて最終のアウトプットまで見るお仕事なんですね。デザインはどういったツールで行うのですか?
あ、手書きです!
手書き!? ペンタブを使っているという意味ですか?
あ、いえ。本当に紙にペンで。頭に浮かんでいるものを起こしています。なので、デスクの上のモノがすごいです...笑
すごい。もともと絵を描いたりするのがお好きだったんですか?
そうですね。幼少期に絵を習っていましたが、先生や親がたくさん誉めてくれたのを覚えています。この経験は、私がものづくりを好きになったきっかけの一つだと思います。
うちの親は、私が「やりたい」と言ったことを否定せずに自由にやらせてくれました。高校も漆器を作れるところに進んだり(笑)。「服作りの勉強がしたい」と言った時も二つ返事で応援してくれました。
素敵な教育方針ですね。ご自身がお子様に接するときに心がけていることはありますか?
やはり私もなるべく否定しないようにしています。習い事なんかも子どもが「やりたい」と言えば「よし、とにかくやってみろ」という感じ。いまはなぜか急にやりたいと言い出したお琴とヴァイオリンをやっています。自分で言い出したせいか一度もやめると言わずに続いていますね。
いまお子様が12歳ということでしたが、友達や社会との接触も増え、親との関係性も変わってくる段階かと思います。これから親として「どうありたいか」というビジョンはありますか?
私は今、自分の好きな事を仕事として取り組めている事にとても感謝しています。刺激も沢山あり、とても楽しいですが、一方で子育てをしながら働くのは正直、大変なことも多いです。
つらいときは、子どもの前でも気にせずに「あーきつい」とか弱音を吐いてしまいますし、逆に、この前はGINZA SIXのMATOのお店に連れて行って「これママが作ったんだよ」と自慢しましたし、そんな感じで全部さらけ出しています。
なので、なんというか... そういった、大変な事もあるけど、やりがいを持って真剣に楽しみながら、子育てや仕事に取り組んでいる姿勢を、子どもに見てほしいですね。
泥臭いかもしれませんが、そういう生き方を見て、大事にしたい事や叶えたい夢があったら、大変でも立ち向かい乗り越えていける人に成長してほしいと思います。
恒例の企画なのですが、お子様との思い出の品を見せてください。
小3くらいのときに、母の日に突然くれたんですよ。これまでもらったことなかったのに。それ以降ももらえないんで、「毎年くれよ」という感じなんですが(笑)。
子どもが作ったものはしまい込むよりも、気に入ったものは飾っあげるほうが子どもの自尊心が高まる、というのを聞いたのでずっと飾っていますね。
あと、子どもとの思い出でいうと、唯一、自慢できる習慣があって。私は母子手帳の成長記録もつけていないようなタイプなんですが、子どものお誕生日だけ手紙書いてるんですよ。1年に1回だけちゃんと真面目に長文で。色んな思いを書いています。あと「今年はこれができるようになったね」とか。で、それを渡さずに取ってあるんですよ。いま12年分で12通。これをいったん20歳で渡そうかなと思っています。
めちゃくちゃいいですね。絶対泣いちゃうやつ...。
なんか自分で話してて泣きそうに...笑
どう思ってくれるかは分かりませんが。
最後に、ブランドを通して発信していきたいメッセージや実現していきたいことをお聞かせください。
子育てって大変なことがたくさんあって、正解がないじゃないですか。子どもが小さいときなんかその都度、本当に思い悩んで「大変だ」という気持ちになっちゃうと思うんですが、子どもが12歳になって改めて振り返ると、そういう大変さも含めて一瞬で通り過ぎてしまった、二度と戻らない儚い時間だったなと思います。子育てって正解がないからこそいろんな可能性があって、正解を追い求めて囚われるより、もっと子育てを楽しむということを大切にできたらいいなと思います。
ペアレンツが自分のアイデンティティやスタイル、ファッションも大切にしながら楽しく子育てをすることが結局、全て子どもに伝わります。皆がそうであれればいいなと願っています。
最近は身近な若い世代の子や、SNSなどの情報からも子を育てることについてネガティブな意見を耳にしたり、目にしたりします。時代性もあるし、大変な事があるのも事実なんだとも思うのですが....でもそれだけではなく、子どもって莫大なエネルギーがあり、たくさんの幸せをくれます。そういった子育ての素敵な部分も次の世代に伝えていけたらと感じています。
MATOは、子育てに寄り添いながら、『子どもがいるライフスタイルを自由にデザインできる社会』を目指しているので、私はデザイナーとして、子育てにワクワクできる商品やきっかけをクリエイトし続けていきたいです。